近年、多くの企業が従業員の健康増進に積極的に取り組んでいます。その背景には、従業員の健康状態が企業の業績や生産性に直結することが広く認識され始めているからです。
本記事では、肥満医学の視点から、従業員の健康が企業の生産性に与える影響を、「プレゼンティーズム(疾病出勤)」と「アブセンティーズム(病欠)」という二つの重要な概念を用いて詳しく解説します。
プレゼンティーズムとアブセンティーズムとは?
まず、これらの概念に関して説明します。
- プレゼンティーズムとは、従業員が出勤しているにもかかわらず、健康問題により業務のパフォーマンスが低下している状態を指します。これは日本語で「疾病出勤」とも表現され、実際の職場では見えにくい損失として知られています。
- アブセンティーズムは明確な病欠や休業のことで、従業員の欠席による直接的かつ目に見える生産性損失を指します。
一見するとアブセンティーズムの方が企業にとって重大な問題に見えますが、実際にはプレゼンティーズムの方が企業経営により深刻な影響を与えることがわかっています。ある調査によれば、健康関連の総コストのうち、プレゼンティーズムが約78%を占めるのに対し、アブセンティーズムはわずか4%という報告もあります。
肥満と職場の生産性の関係
肥満は、これら二つの生産性損失の主要な原因の一つです。近年の研究によると、
- 高度な肥満(BMIクラスIII)を持つ従業員は、病気欠勤の確率が正常体重の従業員の約1.6倍に増加します。
- 軽度な肥満でも、プレゼンティーズムが約1.5倍増加します。
- ヨーロッパの26か国を対象とした大規模な調査では、肥満の従業員の病欠リスクが最大2.5倍、長期病欠リスクが約2.2倍にも達することが示されています。
これらの影響は、単に従業員個人の健康問題にとどまらず、企業全体の経済性や業績に深刻な影響を及ぼしています。
企業経営を圧迫する経済的損失
肥満に関連したアブセンティーズムとプレゼンティーズムがもたらす経済的な損失は甚大です。
- 米国においては、肥満に起因する病欠だけで年間約86億5千万ドル、医療費やプレゼンティーズムを含む総損失額は731億ドルに達します。
- 特にプレゼンティーズムが占める損失の割合は非常に大きく、前述のように、肥満関連コストの78%がプレゼンティーズムによるものであることが分かっています。
- さらに、世界規模で見ると、肥満による経済損失は、喫煙や武力紛争に匹敵するほどの規模に拡大しています。
職場の肥満治療介入による生産性改善の可能性
幸いなことに、企業が積極的に肥満の治療に取り組むことで、生産性を回復できる可能性があります。例えば、
- 職場での減量プログラムを通じて従業員が大幅な減量を達成すると、欠勤時間が減少し、併存疾患(糖尿病や心疾患など)が改善されることで、生産性向上につながることが報告されています。
- 肥満手術を含む積極的な治療では、プレゼンティーズムが短期的に大きく改善され、その後も良好な水準が持続することが示されています。
つまり、肥満への医学的介入は単に個人の健康問題の改善にとどまらず、職場環境の改善、企業の生産性や競争力の向上、ひいては経済全体の改善にも貢献する可能性を秘めています。
企業の未来を変える「健康戦略」へ
肥満医学に積極的に取り組むことは、もはや個人の問題ではなく、企業経営上の重要課題です。プレゼンティーズムという「見えない損失」を見える化し、早期に介入策を実施することが、企業の業績を守るための鍵となるでしょう。企業リーダーには、従業員の健康改善を戦略的に推進し、職場のパフォーマンスを最大化することが求められています。
参考文献
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